肉体に対する関わり方は、乗馬をイメージすると分かりやすいのかもしれません。

我々ニューフィールドは
『私たちが自分だと思っている存在と、肉体とは別々のものである』
『肉体とは、それそのものが独立した一個の生命体である』
という理論を打ちだし、それに基づいて施術を行っていますが、その意味がいまいちピンとこない方も少なからずいらっしゃるのが現実です。

そんな方々にどのようなたとえ話を用いて説明すればいいのかと考えていたところ、あるクライアントの方から乗馬というヒントを得て、それを別の方に試してみたところ、驚くほどスンナリ受け入れてくださったことに、話をした私本人が驚きました。

 

私たちの心を騎手、肉体を馬だと想像してみてください。
馬は、馬独自の意志を持っています。
もし私たちが何もすることなく、馬の自由にさせてあげれば、馬は自らの意志で自由に歩き、自由に草を食べ、自由に眠ることでしょう。
ですがそこに騎手が跨ると、馬は騎手の指示に従って動きます。
騎手が進めと命じれば進み、止まれと命じれば止まります。
そして、自由に動けるのならばわざわざ向かって行く必要さえない障害物に対しても、騎手が走れと命じればそれに向かって走り、騎手の合図と共にそれを飛び越えることさえもします。
私たちと、私たちの肉体とはこのような関係であり、肉体が元気であればあるほど、私たちの出す命令に対して従順に、そして柔軟に応えてくれるのです。

しかし、加齢と共にその関係は変化していきます。
馬は生き物ですから、時間が経てば当然年老いていきます。
ですが、乗り手である心は、老いるということを知りません。いつまでも10代、20代のような若々しくエネルギッシュな老人がいるように、心というのは本人の努力次第でいくらでも若さを保つことができてしまうのです。

 

さて、ここで多くの人たちが直面する問題が生じます。
若いころはあれだけ簡単にできていたことが、いつの間にかできなくなっている。
高校生や大学生の頃は考えたとおりに体が動いていたはずなのに、気が付いたら体がついてこなくなっている。

そして、そういった現実から、多くの人はこのような結論に達してしまうのです。
『つまり、私自身が衰えてしまったのだ』
『私はもうダメになってしまったのだ』
と。

 

それは、まったくもって愚かな勘違いです。

精力に満ち溢れ、動きたくて仕方の無い若々しい馬で攻略した障害物レースがあったとして。
同じコースを、年齢を重ね、穏やかになった壮年の馬で挑めば、勝手が違うのは当たり前のことです。

あのとき出たはずのタイムが出ない。
あんなに易々と飛べた障害物に、こんなにもヒヤヒヤさせられるなんて。
そう感じるのは当然のことなのです。

 

また、仮に同じ馬であっても、コンディションに違いによって動きに差が生じるのは、誰でも分かることでしょう。
昨日できたからといって、今日も同じようにできるとは限りません。
ましてや、十分な休養と、万全の栄養管理で挑んだときにできたことなのだから、寝不足で空腹の状態でも同じようにできるはずだと考えるなんて、ナンセンスです。

 

しかし、私たちはすぐに勘違いをしてしまうのです。
一度できたのだから、次も必ずできるはずだと、安易で短絡的な考えをしてしまうのです。

確かに、成功体験は私たちを成長させます。
ですが、一度成功したからといって、二度三度と同じことができるほど現実は甘くないということも、私たちは良く知っているはずです。

あのときのレースで優勝したとき、馬のコンディションはどうだったろうか。
栄養状態は? 休養は?
十分なトレーニングを積んで、どれだけの時間を共に過ごしたか。

そういった情報を分析し、今はそのときに限りなく近い状態だから、今回もきっと成功するだろう……そう考えるのは、実に理にかなっています。
しかし、何の分析も情報収集も無く、あのときできたんだから今回もできると思い込み、それで失敗して『腕が落ちた』だの『衰えた』だの、ましてや『ダメになった』と思い込むなんて、短慮としか言いようが無いではありませんか。

 

できなくなったのは、あなたではないのです。
あなたの乗っている馬の調子が、できたときと違うという、ただそれだけの理由なのです。

そして違うのであれば、その原因を探ればいいだけのことです。
休養や栄養が足りていなかったのなら、十分に休みを与えなければなりません。
年齢によるスペック、能力の変化であるのならば、その能力に合わせたフィールドに騎手の手で連れて行ってあげなければなりません。

若い馬と同じように走れないからといって、年老いた馬に鞭打つ騎手がどこにいるでしょう。
馬にろくな食事も休養も与えずに、過酷なレースを走り切れと命じる騎手など、騎手失格だと言ってやりたくはなりませんか?

 

それを踏まえて、あなたの馬を見てみてください。
年齢はどのくらいですか? 栄養状態はどの程度でしょうか。
そして、それに向かい合うあなたの手に持っているものは、なんでしょう。
鞭ですか? それとも飼葉ですか?

馬の能力を最大限に引き出すことこそ、騎手の役割です。
もし馬と騎手のようなパートナーシップを、肉体と私たち自身のあいだに築くことができれば、まさに人馬一体の言葉どおり、肉体は私たちの願いに100%応えてくれることでしょう。