ストレスってなに?

私たちが喜びを感じる瞬間とは、どういうときでしょうか。
美味しいものを食べたとき。
手に入れたいと願っていたものを手に入れたとき。
難しいと言われていた契約をゲットしたとき。
はたまた好きな人と最高の時間を過ごすとき。

人それぞれ喜びの形は様々で、100人いれば100通りの喜びがあって然るべきだと思います。

そこに、敢えて共通項を見出そうとしてみたところ、達成感というキーワードに行きつきました。
例に挙げた4つの達成感をそれぞれ分析してみると、
美味しいものを食べられない空腹の時間を経ての達成感。
欲しいものを手に入れるための準備、下積みを経ての達成感。
契約を成立させるためのいろいろな苦労を経ての達成感。
好きな人に片思いしている苦しい期間を経ての達成感。
といった具合です。

なんだそんな当たり前のことを……と思うかもしれませんが、もしこの達成感を得るために超えなければならないハードルという存在がなければ、私たちは今ほどの多くの喜びを感じることができるでしょうか。
お金も場所も関係なく、美味しいものを好きなだけ食べられるとしたら。
自分が欲しいと思ったものが何でもすぐに与えられたとしたら。
訪問するすべての会社で契約が取れたとしたら。
一目見て良いなと思った異性に告白したら二つ返事でOKされて付き合うことになったとしたら。

もちろんそんなことはありえませんし、もしありえたとしたら夢のようなひと時となるかもしれません。
しかしその反動として、だんだんと喜びの感覚が鈍化していくような不安も感じずにはいられません。
やはり、喜びには何かしらの達成感を得るためのハードルが必要不可欠ではないかと思うのです。

このハードルですが、実は私たちが普段『ストレス』と呼んでいるものこそが、その正体であるように感じます。
一般に、ストレスは無いほうが良いものとされています。現に私自身もワーニッツでからだのことを学ぶ以前は、ストレスは不幸の元であり、ストレスフリーな生活こそ最高の幸福だと考えていました。
たしかに、過度なストレスは心身の健康を害することが多いですし、ストレス性の頭痛や腹痛、あるいは精神の衰弱など、医学面から見ても悪いもののように扱われることが多いのがストレスという言葉です。

ですが、このストレスという言葉をハードルという言葉に置き換えてみたらどうでしょうか。
ハードルが高ければ高いほどゴールに辿り着いたときの喜びは大きい。
恋は障害(高いハードル)があればあるほど燃え上がる。
万人に共通する価値観ではないかもしれませんが、多くの人がよく耳にする言葉だと思います。
また、その障害となる高いハードルを越えるのは辛いものです。しかしその「辛い」は“つらい”と読みますが“からい”とも読めることから、ストレスを人生のスパイスとして捉えることはできないでしょうか。
喜びを甘みに、ストレスを辛みに置き換えたとして、甘い一辺倒の味わいよりも、隠し味にスパイスを加えたほうが、より甘さが引き立つということは往々にしてあります。

ストレスとは、言ってしまえば自分の外側から来る圧力のことです。
強すぎる圧力は自分を潰してしまうことは容易に想像できるでしょう。けれどそれと同時に、適度な圧力は肉体の生命活動そのものを促進させるというのはご存知でしょうか。
よく、入浴は健康に良いと言われますが、あれはお湯の温度で体を温めると共に、水圧で体に普段より僅かに強い圧力をかけることで細胞を活性化させることによるものでもあるのです。
つまり、私たちのからだはストレスを受けることで、かえって健康になる能力を持っているのです。

ストレスフルなこの社会で、自分の望まない過度なストレスに晒されるシチュエーションは数えきれないほどにあります。
しかし、料理において塩や香辛料が味を引き締め、甘さを際立たせるのと同じように、適度なストレスは私たちの生活に張りを与え、からだを健康に導くという役割を持っています。
ストレスを避け、ストレスから逃げるという選択肢も、あって良いと思います。
それと共に、ストレスは健康の秘訣、ストレスは喜びの隠し味と解釈して、自分の感じるストレスを上手に調整する方法は無いものかと模索してみるという選択肢も用意できると、生き方が広がるかもしれません。
もし、ストレスという言葉そのものからネガティヴなイメージが消せないというのなら、いっそ今日からストレスを全部『スパイス』に置き換えてみるというのはどうでしょう。
「今日の仕事はちょっとスパイスフルだったな」
「最近スパイス強めだから、ちょっと他の味も足して調整しなきゃ」
こう言うと、なんだか急にストレスに親近感が湧いてきます。
むしろ、ちょっとくらいスパイシーな味付けじゃないと美味しくない……なんて思えれば大したものです。
きっとその人にとって、もはやストレスは不幸ではなく、幸福を引き立たせる最高の隠し味になってくれるでしょうから。

Masaki