身体のイメージは鉄筋コンクリート造よりも五重塔のように
身体を建物に例えると?
身体を建物に例えると、どんな建築物になるのでしょうか。
建築物といっても、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、木造などいろいろな種類があります。
最近では、大きな震災や事件があると建築基準法が改正されて、どの構造の建物でもより強い建築物になるように基準が上げられます。
より金物をたくさん使い、部材でしっかり支えるなどして強度を上げ、大きな地震に耐えられるようにしているのです。こうした流れを見るにつけ、時々、人の身体もこれらの建築のように考えている人が多いのかな、と感じることがあるのです。
白金台「ピタゴラスの手」には、側弯症の方や人工関節などの手術をするかどうか悩まれている方もいらっしゃいます。
そうした方々のお話を聞いていると、身体に金物を入れたり、骨をボルトで留めるといったことで、身体を支えたり姿勢を補正するという発想が一般的なようなのです。しかし一方で、その方法でよいのかどうか不安を感じたり、悩まれて来られる方もいらっしゃいます。
身体を鉄筋コンクリート造や現在の木造建築のようにとらえていると、ボルトや金物をしっかりと入れて固めることで強くなるという考え方になりがちです。
しかし、実際に施術を通して感じることは、鉄筋コンクリート造のように固めてしまう発想では、身体はよい動きをしないということです。
金物などで固める方法で建てられた建築は、一定の強さを発揮しますが、地震などの揺れで壁などに亀裂が入ったりしています。
むしろ、日本の伝統的な建築である五重塔の方が、身体の本来のイメージに近いのではないでしょうか。
五重塔は力をうまく吸収する構造になっており、大きな地震等でも倒壊しにくい強さがあります。
宮大工の西岡常一氏は著書『宮大工棟梁・西岡常一 「口伝」の重み』(日本経済新聞社刊)のなかで、法隆寺の五重塔の解体修理中のできごとをこのように述べられていました。
「解体修理中に地震があった。見ていると、初層が右に揺れれば二層は左と、波のようになる。全体としてそれでゆれを吸収してしまう。今の高層ビルでいう柔構造を、千三百年前にやってのけていたのだ。」
理想的な使い方をしている身体は、まさに五重塔のような動きをしています。
人が歩くときには体重の約1.3倍、走るときには約2倍の衝撃が足にかかると言われています。これはその人の体重や一日の歩行距離によっても異なりますが、毎日数百トンの荷重が両足にかかっていることになるのだとか。
鉄筋コンクリート造のように身体を固める使い方をしていると、衝撃を緩和させることができず、足や膝にかかる負担を大きくしてしまいます。
正しい身体の使い方をした方がよいのですが、この「正しい使い方」ということも、分かりづらいものです。
そこで、まずは五重塔のように、「人間の身体は受けた力も吸収できる構造をしているのだ」と感じるところから始めてみてはいかがでしょうか。
日本の伝統建築と身体に共通する考え方
余談ですが、西岡常一氏は同書のなかで、「木は山で買え」「木は生育の方位のままに使え」「堂塔の木組は木の癖組み」という口伝についてもふれられています。
同じヒノキでも生育している地方によって性質が異なるので、木は山ごと買うように先人の宮大工たちが伝えていたこと。そして、切った後も木の性質は残るので、生育していた場所が山の頂上、中腹、斜面、南か北か、風の強弱、密林か疎林かで異なる気の性質を考慮に入れて使い切る、まさに適材適所ということについて、語られているのです。
人の身体は材木とは異なりますが、骨、筋肉などが、まさに「この場所に最もふさわしい」という形や付き方をしています。
先人の宮大工たちが、木の性質を見抜き、適材適所で材木を使って建物を建てることで、木のそして建物の命を延ばしたように、身体の構造やはたらきを深く理解することで、人の身体も長く丁寧に使っていくことができるのではないでしょうか。
また、西岡氏は「木はねじれ、反る。これまた生育の条件によってまちまちである。その木の癖を見抜き、簡単にいえば、右に反る木と左に反る木を組み合わせて、力が相殺されるように用いる。口伝に言う「堂塔の木組は木の癖組み」だった。」とも語られています。
これなど、人の身体のクセを見抜き、それを相殺したり、補正するような圧をかけながら身体の調整をしていく施術「ワーニッツ」にも通じていくものを感じました。
いまある身体がどのような状態であっても、生かす方向を考えて施術をしていくことで、身体全体のバランスを整え、長く良い状態を保つというところでは、本質的な考えは共通しているのではないでしょうか。
さて、身体を鉄筋コンクリート造のように固めるイメージではなく、ぜひ、五重塔のように力を柔らかく吸収できるイメージを持っていただきたいという話をしてきました。
イメージだけで変わるのだろうか?と感じる人もいらっしゃるでしょうが、身体は案外、応えてくれるものです。
ご自分の身体を信頼して、ぜひ、試してみてください。
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