あなたの憧れる神話は?

洋の東西を問わず、神話は国家、民族の根幹を成すものです。言うなれば、神話とは人類のルーツなのです。
当然、その神話をベースとした国家性、民族性がその上に形成されていきます。
数多の戦いの中で勝利を掴んでゆく神々が多く登場する神話を持つ民族は、攻撃的ですが非常に進歩的で、石や鉄などで永遠性を追求する芸術を作りだすことでしょう。
かたや、他者との繋がり、信頼や思いやりを尊ぶ神々が活躍する神話の民族なら温和で友好的な精神性と、それに基づいた自然と調和する芸術を作りだすでしょうが、急激な変化を避ける傾向があるかもしれません。
このように、民族の根幹を成す神話は、私たちの自我の遠く及ばないところで、私たちの精神や肉体に多大な影響を与えているのです。

同じように、肉体そのものもまた神話を求め、その神話に基づいた姿へと自らを創り上げようとします。
では、あなたの持つ肉体の神話は、なんでしょうか。
つくづく思うのですが、肉体においては『自傷神話』『苦行神話』が非常に根強いように感じます。
苦しんだ分だけ成長する。自分を痛めつけた分だけ、そこから多くを学び取れる。そんなふうに感じることは無いでしょうか。
私はスポーツ漫画が好きです。登場人物たちがスポーツという定められたひとつのルールの中で互いに競い合い、それぞれの目標に向かって成長してゆくという王道的ストーリー展開に、強く惹かれます。
しかし、そこに登場するキャラクターが今以上の強さを求めようとするときに選ぶ方法が、苦行的猛特訓や、我が身を削るかのような激しいトレーニングであることが殆どではないかと思います。
理由は簡単で、そのほうが絵として分かりやすく、単純な説得力があるからです。
漫画は分かりやすい、キャッチーであることも大切です。一目見ただけでそれがどのようなシーンかが分かるというのも重要なのです。
ですが、あくまでそれは分かりやすさを重視したものでしかない、とも言えます。
それが悪いとは言いません。むしろ、それもまたスポーツにおけるひとつの真理だと思います。
しかしすべてでは無いとも思うのです。
もしも小さい頃からそういったものを読んで育ったら。
もしくは感受性豊かな時期に、そのキャラクターたちに強い感銘を受けたら。
それが肉体の神話として、強く刻み込まれてしまうかもしれません。
もちろん、その神話を良しとする、その神話と相性の良い民族性ならぬ肉体性を持っていたのならば、なによりです。
しかしもしも、そういった苦行論、根性論と相性の悪い肉体であるにもかかわらず、それこそが唯一絶対の真理であると思い込んでしまったら、その肉体は破滅への道を辿ることになるでしょう。

私たち人間ひとりひとりに個性があるように、肉体にもまたひとつひとつ違った個性があります。
その個性を知り、それに見合った神話を築いてあげるのもまた、肉体を持つ私たちの役割ではないでしょうか。
スポーツ漫画にも、たくさんのバリエーションがあります。
1対1の戦いの中で強さを極めてゆく格闘モノ。
異なる個性が集まってチームを作り、そのチーム同士がぶつかり合う野球やサッカーのような団体競技モノ。
はたまた駅伝のように、タスキを繋いで思いを繋ぐといったチームメイトの絆を大事にしたものも、立派なスポーツ漫画です。
神話はひとつではありません。
皆さんの肉体は、どんな神話を美しい、尊いと感じるでしょうか。
それを知ることもまた、自分の体を知るということに繋がっていきます。
お寺で座禅を組み、瞑想の中で自分を深く探求していると、あるときフッと自分にとって最高のバッティングフォームに開眼し、名ヒッターとして活躍する……そんな肉体もあっていいと思います。
ですが漫画としては売れなさそうですね、ヴィジュアル的に。
masaki