【もっとも近しい隣人を知る】

前回は、睡眠時間とは単なる休息ではなく、
からだという隣人と、24時間のシェアなのだ
という話をしました。

我々ピタゴラスの手では、からだを単なる物質として扱っていません。
それどころか、
私たちとは異なる独自の意思を持った生命体である
と考えています。

では、そもそもからだとはどのような生命体なのでしょう?
一体何を好み、何を嫌い、どんな特徴を持っているのでしょうか。

「からだは、私に最も近しい他者である」
それが本当だとするならば、私たちは常に別に意思を持った他者と
共同生活をしているということです。

であるならば、それを円滑に進めるためにも、
まずは相手を知らなければなりません。

共同生活をする相手の得意、不得意、大切にしている価値観などを知れば、
より円滑な付き合いができるようになるというのは、
私たちも、からだも、同じです。

しかし残念ながら、その全容は未だ分かっていません。
誰よりも近くにいながら、この世のどんな生物よりも謎多き生命体
それが、からだという存在なのです。

とはいえ、全容が見えていないというだけであって、
分かっていることもまた、たくさんあります。

その中でも最大の特徴と呼べるのが、
「バランスを何よりも大切にする」
ということでしょう。

この特徴こそが、私たちの健康維持に必要不可欠なものであり、
同時に、からだが言うことを聞かないと感じる原因でもあるのです。

からだにとって、実は成長とは副次的なものに過ぎないのです。
成長という変化よりも、バランスという安定をこそ大事にする、
それがからだなのです。

以前のブログでも語った、交感神経と副交感神経のはたらきは、
その最たるものでしょう。

たとえば長い時間、緊張状態に晒されていると、交感神経が活発にはたらきますが、
交感神経ばかりが活発に働くと、バランスが崩れてしまいます。
このバランスを取るために、からだは交感神経のはたらきを緩めようとはしません。
逆に、副交感神経を同じくらい活発にはたらかせることで、
バランスと取ろうとするのです。

その代表的な方法が、胃腸の活動や発汗作用であるという話もまた、
以前のブログで紹介しました。
仕事のあとに、ほとんど動いていないにもかかわらずとてもお腹が空いたように感じたり、
試験や面接などの前に、暑くもないのに汗が止まらなくなったりすることは、
多くの方に覚えがあることでしょう。

 

もうひとつの代表的な特徴は、
「からだは、ただひたすら応えるものである」
ということです。

よく、
「からだの声を聞け」
「からだに従えばすべて上手くいく」
という健康法を謳った書籍を目にすることがあります。

決して間違っていません。
むしろ、からだに無理やり言うことをきかせ、奴隷のように扱うより、
何倍も良い効果が得られると思います。

しかしその声とは、あくまで
「バランスを取るために、今現在できる最善」
という基準から発せられるという点です。

語弊を承知で敢えて言えば、目先のバランスを取ることに集中しすぎて、
そのバランスを取ることによって起きる不都合には、
まったく考慮していないということです。

先述の、仕事のあとに訪れる堪えがたい空腹感は、その代表でしょう。
からだは、過剰な交感神経の活性化とのバランスと取るために、
副交感神経も活発にさせてバランスを取りたいと願います。

しかし、何も考えずにただそれに従えば、暴飲暴食という行動に繋がり、
その結果待っているのは、肥満に代表される成人病です。

からだは、
「今ここで食べ過ぎれば肥満になって、かえってバランスが大きく崩れる」
「だから副交感神経をはたらかせすぎるのはやめよう」
……とは、判断してくれないのです。
「未来を予測し、判断する」
ということが、できないのです。

 

では、それを行うのは、誰でしょうか?
脳でしょうか?
いいえ、脳はあくまで、からだの持つ器官に過ぎません。
脳もまた、今現在のバランスを求めて活動するのです。

この「未来を予測し判断する」という行為こそ、
私たち自身の役割なのです。

からだは「今現在」と「バランス」にかけては天才的です。
私たちは、その天才の進む「未来」を模索し、より良く「成長」できるよう、
導いていく必要があるのではないでしょうか。

現在と未来
変化と安定
成長と調和

これらの関係性のさじ加減こそが、
私という本人と、からだという隣人との、
付き合い方なのかもしれません。